はじめに
「えっ、死体が殺されたってどういうこと?」
そんな奇妙な謎から始まるのが、山口雅也による長編ミステリ『生ける屍の死』(講談社文庫)です。
1990年代初頭のミステリ界に突如現れ、本格ミステリ復興の旗手として注目を集めた本作。
英国ミステリの伝統を踏まえつつも、「死者が主人公」「ゾンビが合法的に存在する世界」という斬新な設定で、多くの読者を驚かせました。
本格推理小説の常識を揺るがす、異色かつ圧倒的なデビュー作です。
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は現代アメリカ。しかし、この世界では「死者(ゾンビ)」の復活が科学的に合法化されている。
死体を蘇生させ、一定の機能を保ったまま“ゾンビ”として扱うことができる──そんな奇妙な社会が当たり前になっています。
そんな中、ある富豪の館で起こったのは、「すでに死んでいたはずの人物が“ふたたび”殺された」という前代未聞の事件。
調査に乗り出したのは、皮肉屋で洒脱な名探偵・J・D・ウィットフィールド。
死者をめぐる二重の謎、家族と使用人が絡む密室殺人。
果たして、“本当に”殺されたのは誰なのか──?
この作品の魅力
🧟1. 唯一無二の「ゾンビ・ミステリ」
「ゾンビが登場する本格推理?」
そう聞くと奇をてらった設定に思えるかもしれませんが、本作ではその設定が極めて理詰めで丁寧に描かれています。
ゾンビという存在が、医学や法律、社会制度と結びつくことで、事件そのものがより複雑かつリアルに。
そしてこの設定が、前代未聞のトリックと真相へとつながっていきます。
🧐2. 英国黄金期ミステリへのオマージュ
本作には、アガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、ヴァン・ダインなど、黄金期の本格ミステリへの深い愛と敬意が込められています。
探偵・ウィットフィールドの語り口や、クラシックな推理スタイルは、古典好きにはたまらない味わいです。
しかもそれが、現代的な皮肉とアイロニーで再構築されているのが魅力。
ミステリの伝統と革新が見事に融合しているのです。
🧩3. 論理的かつ大胆なトリック
ゾンビという非日常設定を活かしながらも、トリックや謎解きは驚くほどロジカル。
一見ファンタジーのように思える要素が、逆にトリックの鍵になる──それがこの作品のすごさ。
読了後には、タイトルの意味がガラリと変わって見えることでしょう。
こんな人におすすめ
- 本格推理小説が好きな人
- クイーン、クリスティ、カーなどの古典ミステリを愛する人
- “設定勝ち”ではなく、きちんと論理で解かれる謎を求めている人
- 一風変わったミステリに挑戦してみたい人
書誌情報
- タイトル:『生ける屍の死』
- 著者:山口雅也
- 出版社:講談社文庫
- 初版:1995年(文庫)/1993年(単行本)
- ページ数:約500ページ(文庫)
- 備考:第49回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞
おわりに
『生ける屍の死』は、異様でありながらも知的で、美しく、そして不気味な傑作です。
一見突飛な世界観の中で、これほど緻密な論理が展開されるとは、読者の誰もが予想しないでしょう。
「こんなミステリ、読んだことがない!」
そう感じたいあなたに、ぜひおすすめしたい1冊です。
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